野生動物への餌付けは残酷極まりない

 友人とナキウサギを撮影しに行った帰りの事。道路端にキツネ(キタキツネ)の子供を数匹見つけた。
キツネのこっこは本当にめんこく、子犬がじゃれあうように走り回っている姿に、カメラを向けずには
いられなかった。場所は市街から然別湖へ向かう国道で、交通量があるのが気になったが、
まさかこの後にあのショッキングなシーンを目撃する事になろうとは想像もしなかった。
 道端に車を停め、望遠レンズを向けていると一台の車が通りかかり、我々のレンズを見て
キタキツネのこっこ達に気付き、車を停めた。ちょうど私達とキツネたちを遮断するように車を停めた
ので、おいおい何を考えているの?と思ったら、何とドーナツを放り投げ与え始めたのだ。
 キツネたちは思わぬご馳走に狂喜乱舞し、ドーナツにがっつき始めた。その内に助手席に乗っていた
中年女性がドアを開けて降りて餌を与えようとしたので、同乗していた我が友と一緒に
『ちょっと写真撮っているんだけど』『餌をあげるのはやめて下さい』『将来その子らを殺す事になりますからやめて』と大声を出した。餌をあげていた二人の中年女性は渋々、車を発進させて去った。ナンバーを見ると何と地元帯広ナンバー。観光客の無知ならまだしも理解できるが、地元市民がこんなことをしていては問題だとショックを受けた。
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 その後、キツネたちの存在に気付かれぬように車が近づく音が聞こえるとレンズを引っ込めるようにした。その内、あろうことか、こっこ達が道路に出始め、ついには道路の真ん中に出てきているでは
ないか!ここは山道とはいえ国道で、それなりに交通量はあり、車はスピードを出しているのだ。
なぜ、こんな危険な事をするのか...向かいの道路脇の崖に親ギツネがいるのを発見した。
子供らはなんとかそれに着いて行こうとしているのだった。しかし、3Mはある垂直なブロック壁
を小さいこっこ達が登れるはずもない。ついには道路の真ん中に座りこんでしまった。

 『危ないなぁ...』漠然と友と語っていたら、車の音が近付いてきた...
キツネのこっこ達がいる場所がたまたまカーブの入り口付近だったので車の
ドライバーも気付いたらしく、減速・徐行して近付いたのだが、直近の逃げ場で
ある道路端と親ギツネのいる方向が正反対だったのが運が悪かった...
兄弟は道路端に逃げたが、1匹が親ギツネの方へ向かうと思いきや兄弟につられたのか
道路端の方へ踵を返した所に車のタイヤが襲った!小さい車だったので、タイヤも細かった
し、徐行していたのだが無惨にもタイヤは子ギツネの下半身をつぶしてしまったのだ。
 細く鋭い悲鳴が聞こえ、鉄工所の火花のような物が飛び散るのが目に入り、痛みにのたうち回る
子ギツネを呆然と眺めていた...今でも脳裏に焼きついている残酷な光景だ。車のドライバーは
後味が悪かったのか青い顔をして走り去っていった。下半身をつぶされた子ギツネは動けず、
道路の中央でまだもがいている。あまりにも残酷な光景にどうしたら良いのか判らず、ただただ
呆然とするばかりの我々だった。兄弟ギツネは犠牲になった仲間を不思議そうに眺め、親ギツネは
呑気に崖の上で頭を掻いている。そこへネイチャーセンターの車が通りかかり、停まった。
我々はこういう場面に直面した時にどうしたら良いのかを学ぼうと車を降り、見に行った。
肉片と内蔵の一部のようなものが道路上に転がっていて、ネイチャーセンターの職員さんは
致命傷と判断したのか、ちり取りを車から出すと、もがき苦しむ子ギツネを道路脇に追いやった。
彼はちり取りから逃れようと下半身を引きずりながら、道路脇の草むらへ飛び込んで消えた。
餌付けの現場から事故まで状況を手短に話し、対処について尋ねた。
『助からないでしょう』『この時期はどうしてもこういう犠牲が出てしまうのです』とのことだった。
つまり、道路の脇に捨てるしかないということだ。
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 その後も残った兄弟ギツネが飛び散った肉片の匂いを確かめているようだった。
ただ、私には食べているようには見えず、不思議そうに首を傾げているように見えた。
『餌付けの功罪を啓蒙しているのに、なぜ一連の経緯を写真に撮らなかったのか』
友とともに自責の念にかられながら、非常に後味が悪い帰路となった。
帰りの車内には重苦しい空気が漂い、無言の胸中には先ほどの残酷な場面が繰り返されて
いた。やがて気持ちにも少し整理がついてくると友とともに意見を交わした。

 餌付いてしまった親ギツネとその子供達。子供は親を見て育つから親がもらいギツネだと
人間や車に対する警戒心が薄く育ってゆく。だが、親のように狡猾に立ち回れないこっこは
今回のように犠牲になりやすいのかも知れない。
 餌付けの一般論として、1.与えられる食物が野生動物の身体に影響する直截的な害や
給餌依存による餓死 2.人間社会との交差点にとどまる機会が多くなる故の交通事故や
捕食者からの回避率低下があり、今回は後者にあたる。
どちらにしても、開発が進んだ現代は人間社会と野生動物との交差点が増えており、そこでの
振る舞いを間違えれば残酷な結末を招いてしまうことになる。多くを知り、基本的に
野生動物とペットを混同しないように行動することが求められる。野生動物をペット化すれば
今回のような結末になるし、ペットを野生に放てば外来種として在来種を圧迫し、絶滅に瀕する
種が出て来るなど、生態系を撹乱させる結果となる。この野生とペットの境界はしっかりと
引いておかなければならない。

 よく餌付けの問題を提起すると反論する人がいるし、深刻な状況を問題視しない市民も多い。
ハクチョウやキツネなど沢山いるから大きな問題ではない、給餌は市民のレジャーであり、
地域の重要な観光資源なのだ...実際に今回のような残酷な光景を目の当たりにした時に
本当にそう言えるだろうか?

 事故の光景は一生忘れられないが、ある意味では勉強になったのかも知れない。かなり苦い勉強だが。今までは餌付けが生態系の撹乱になります、とか交通事故につながります、と論じていたが実際には見知ったことをまとめた机上の話だった。それが今回は餌付けしている現場 (上流)から実際の
交通事故(下流)までを極めて短時間に現実として目の当たりにしたのだ。 あらためて餌付けの功罪を、
残酷な結果を、実感することになったのだ。ただ、この不愉快な、苦い勉強は次につなげなければ
いけない。この出来事を多くの人に伝え、なぜ餌付けがいけないのかを知ってもらわなければいけない、
そう考えたので、このホームページを観に来た人が目をそむけたくなるような今回の事故の問題をあえて
書く事にした。

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